all Reset 【完全版】
にじむ夜景とキモチ
女はタクシーを呼び、どこかへ去っていった。
バイトに行くと言うと、物足りなさそうな顔をして引き止めようと掴んだ腕を放さなかった。
あんな可愛い顔を作っても無駄。
俺には何の効力も無い。
むしろ、今日はバイトを入れておいて良かったとさえ思える。
でもきっと、バイトが無ければ無いで女を帰すために部屋を出たに違いない。
ビニール傘を差して歩くアスファルトの道は、街灯の明かりが反射してギラギラと目を奪う。
そこから透けて見える街は、いつもより光がにじんで見えていた。
駅前のアーケードに入ると、鬱陶しい傘を閉じる。
その流れで見た足元……。
右足のスニーカーの紐がほどけ、雨水に濡れていた。
仕方なく道の端に寄って腰を屈める。
行き交う人々が足早に横を通り抜けていくのを横目に紐を結びなおし、その波に乗り遅れないように顔を上げた……そのときだった。
目がバチッと合った。
こっちを見ている姿に立ち上がることも忘れ、一点集中……釘付けになる。
何、で……。
「秀くん!」
近付いてきて微笑むその顔は、薄れることもない本物の亜希だった。