all Reset 【完全版】
第一、何でこんなとこでわざわざ待ち合わせなんかしてるわけ?
しかも、遅刻するなんて有り得ない。
色々考えると意味がわからなかった。
昔の亜希なら、怒って帰るのがいいオチだ。
でも、今の亜希には待つのが当たり前の行動。
俺はスマホを取り出し、何も考えずに良平に電話をかけていた。
『おかけになった電話は、電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないため、かかりません』
コンピューターの音声が流れる。
その乱れのない音声に頭がカッとなり、即電話を切った。
そんな俺を、目の前の亜希はじっと見ている。
「……駄目だな」
周囲の喧騒に俺の呟きは掻き消され気味だった。
一体、良平は何してんだ?
そればっかり疑問に思う頭は苛立つ一方だった。
電話が繋がってれば、文句の一つでも言ってやろうと思っていた。
「今日は、帰ったほうがいいかもな?」
このままここで、亜希を独りで待たせるのは心配だった。
良平がいつ来るかもわからない。
「……送ってくからさ」
少し遅れると連絡しようと思い、手にしてたスマホからバイト先の番号を探す。
「あ~あぁ、行きたかったな……東京タワー」
「……東京タワー?」
亜希のそんな言葉に、発信ボタンを押そうとする手が止められる。
「うん……楽しみにしてたのに」
残念そうな亜希の顔を見て、俺は急に戸惑いを感じ始めていた。
久しぶりに会った亜希は記憶を失う前のような面影を漂わせて、俺をじわじわと困らせた。