all Reset 【完全版】
「あ、お疲れ様です。前田です」
そんな亜希を前にして、俺はバイト先に電話をかけた。
前に立つ亜希はバッグからスマホを出し、気にするように画面を見ている。
「申し訳ないんですけど……今日、休ませてもらってもいいですか? ちょっと急用ができて。あ、はい、代わりは自分が当たってみます」
電話でそんな話をしても、亜希は訳の分からない顔をして俺の顔を見上げているだけだった。
何を思って……
何を考えて……
今、俺を見てる?
少し離れようって決めたのに気持ちが鈍る。
その目を見て、俺は自分の重症さを再認識していた。
「……行くか? 東京タワー」
通話を終えた俺は亜希にそう言っていた。