all Reset 【完全版】
「お前、知ってたんだ」
「…あぁ」
春とはいえ、夜になれば空気はまだ冷たい。
窓を開け、外の景色を眺めながら俺は訊いていた。
亜希に何も訊けなかった俺が行き着いたのは、秀の部屋。
部屋には薄暗い明かりだけが灯り、静かに洋楽の曲が流れている。
大学の入学を機に独り暮らしをしている秀の部屋は、殺風景でほんとにここに住んでんの? ってかんじ。
でも、俺はそんな秀の部屋が居心地いい。
結構頻繁に出入りしてたりする。
秀は今、無言のままベッドに仰向けで雑誌を見ている。
しばらくの沈黙のあとだった。
黙っていた秀が口を開いた。
「あの時……受験前だったからな、お前が」
受験……か。
「波風立てたくなかったんだろ、亜希なりに。お前の受験、心配してたし」
それは、何となくわかってた。
でも、今となってはそんなことはどうだっていい。
「わかってる……」
腑に落ちない気分のまま、俺はポツリとそれだけを答える。
バサッと音がして顔を向けると、秀は雑誌を放り出して天井を見つめていた。
「……あの子とは、上手くいってんの?」
「は?」
……あの子?
あぁ、あの子……。
何で今……そんなこと……。
「まぁ……ぼちぼち」
「……お前さ、大丈夫?」
「何が」
「いや、全体的に」
大丈夫?
なんて訊かれて、改めて自分の落ち具合を自覚した。
キャラ的にこんな自分はめずらしい。
「何か、俺っぽくなくね?」
努めていつもの調子で言ってみると、秀は返事をしないで静かに笑う。
「自覚してんだ?」
それだけを言った。
俺はまた窓の外を眺める。
自転車で犬を無理矢理引っ張って散歩しているおっさんが遠くに見えた。
「……お前の方こそどうなわけ? 最近」
今度は俺の方が何となくそう訊いていた。
でも、秀は黙ったままだった。