all Reset 【完全版】



記憶が戻らなければ、亜希はずっと良平が好きだと思う。


良平がそう言った気持ちは、何だかわかる気さえしてしまう。


皮肉なもんだ。



「でもね……もっと、思い出したいんだ。亜希は」



雨で光る夜景を見つめながら、亜希は悩ましげにそう言った。



「大事なこととか……何もわからないの……嫌なんだ」


「大事なこと……か」



亜希が願っても、それだけはどうしようもない。


もしかしたら、叶うこともないかもしれない。



この世の中で、こんなどうしようもない事情に出くわす人間はどのくらいいるだろう?



物凄い確率でそれに遭遇した俺は、不幸……なのだろうか?




『思い出せよ』

亜希にそう言いたくなった。




「……秀くんのことも」


「……?」



前置き無く名前を口にされて、俺はにじんで見える夜景から横の亜希に目を移した。


真っすぐ向けられるその瞳に鼓動が速まる。



「秀くんのことも、全部……思い出したい」



何でも吸い込んでしまいそうな亜希の目を見つめながら、頭の中が真っ白になる感覚を覚えた。


この距離感がたまらなくもどかしくて、亜希から目が離せなかった。


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