all Reset 【完全版】
電車の最後尾の車両。
会社帰りの酒に酔った中年男が数人爆睡している。
うまい具合にお互い違う席に座って、揃ってだらしない格好。
スリに遭ってもこれじゃ気付かないよな……。
なんて、俺は彼らを遠目に思っていた。
よくテレビの特番で鉄道警察の話が取り上げられると、こんなおっさんたちにモザイクがかかって映ってたなんて、どうでもいいことを思い出した。
亜希ははしゃぎすぎたせいか、すっかり横で眠っている。
俺の腕に手を添え、肩に顔をうずめて子どものようにスヤスヤ寝息を立てて。
移り変わる外の景色を見ながら、このまま時間が止まればいいなんて思った。
やっぱり、離れるなんて自分には無理だった。
会わなくても、いつだって頭には亜希が存在してる。
会ってしまうと、離したくないと思う自分が現れる。
今、亜希がこんなに近くにいることが幸せだった。
亜希から遠ざかって、それがわかった気がする。
電車が揺れる中で、スマホが震えていることに気が付いた。
画面に表示されていたのは、遅すぎる連絡をよこしてきた良平の名前。
周りの乗客が寝ているのを確認して、亜希がもたれている方とは反対の耳で電話に出た。
『もしもし?!』
耳に当てた瞬間、電話から飛び出てきそうなくらい焦りまくりの声が聞こえた。
「……はいはい?」
それに対して、俺は至って冷静な声を出す。
『亜希、一緒?』
「……あぁ。今、電車。帰ってるけど?」
『……電車?』
「東京タワー。お前と行くつもりだったんだろ? 行きたいって言うから一緒に行ってた」
『そっか……ならよかった』
「よくねぇよ。バイト休んだんだけど? こっちは」
バイトを休んだことなんか本当はどうでもよかった。
ただ、何か文句をつけてやろうとそう言っていた。
「ってか、お前何してるわけ? 有り得ねぇから」
はっきりそう言うと、電話の向こうは黙り込んだ。
数秒の沈黙が流れる。
『いや、それがさ……』