all Reset 【完全版】
うわっ……。
タイミングわるー……。
謝ろうと思って来たのに思わず隠れる俺。
出てくに出れなくなる。
「あー、また雨降ってきちゃったね?」
ご機嫌そうな亜希の声が辺りに響き渡る。
どうすっかな……。
そう思いながら、角に立っている電柱から顔を覗かせてみた。
見えたのは、家の前に着いて立ち話をしてる亜希と秀の姿だった。
薄暗い夜道に立つ亜希の真っ白いコートと、首に巻かれた赤いマフラーが目を奪う。
秀を見上げる亜希はいつも下ろしている髪を頭の上でまとめていて、こっからでも横顔がはっきりと見えた。
亜希の目の前に立つ秀は、ジーンズのケツポケットに両手を突っ込んで空を見上げている。
「じゃあ、亜希の傘貸してあげるね!」
傘を持っていなかったのか、亜希が秀に自分の傘を差し出した。
完全にタイミングを失った俺は、ぼさっと覗き見するしかできなかった。
これじゃあただの悪趣味な奴だ。
でも、謝りに出てく気はほとんど失われていた。
今行けば、二人の空気をぶち壊す。
どうしてだか俺はそう思っていた。
本当は、自分があそこにいたはず。
だけど、二人が妙にお似合いに見えて、俺は隠れるしかなかった。
冷たい雨粒が量を増やし始めて、気付けば来た道を引き返していた。