all Reset 【完全版】
あの後、亜希からまた日記が回ってきた。
東京タワーに行った帰り、亜希が貸してくれた傘。
帰りの電車まで持ってたはずの自分のビニール傘を、俺はうっかり電車の中に忘れてきたらしかった。
それを返しに行くと、取り換えるようにノートを渡された。
もう返ってこないと思ってたノート。
その交換日記を手に、俺は今、病院の前に立っている。
亜希が入院してた、あの病院。
気が付けばここに足が運ばれていた。
半年ぶりに会った亜希の主治医、菅野先生は、白衣の下に黒のハイネックセーターを着込んでいる。
冬の始まりの空は一面灰色で、見れば見るほど淋しさを感じさせた。
「あれ以来ね? お客さんが来てるって言われたから誰かと思えば」
先生はそう言って笑顔をみせた。
「突然すみません」
自分が何をしに来たかもわからない俺は、足元の黄色がかった芝生を見つめていた。
「亜希ちゃんは元気?」
そう言うと、
「近いうちにまた来ると思うけど」
と菅野先生は付け足す。
その質問には、
「はい」
とだけ小さく頷くしかできなかった。
「私もね、正直驚いているのよ。亜希ちゃんの回復には」
先生は期待を持つようにそう言った。