all Reset 【完全版】
「今までで、一番印象的だったのよ」
「え……?」
先生が何のことを言ってるのかわからず、俺は先生の顔を凝視する。
先生はふっと顔を綻ばすと、俺から視線を外して遠くを見つめた。
「亜希ちゃんの話をした日……診療室から飛び出していったでしょ?」
そう言われて、あの日の自制の効かなかった自分を思い出した。
説明をしてもらっておいて、あのときの俺の態度は失礼すぎだった。
「おとな気ないですよね。今考えると、恥ずかしいです」
「そうかしら?」
「……? そうですよ……」
「責任もあったし、何より……ねぇ? そういうことでしょ?」
意味深な言い方に、俺は気まずさから目を逸らしていた。
こんなことを訊きに来たり、あの日の取り乱し具合を見れば、誰だって俺の気持ちがわかるだろうと思った。
「記憶が無くなるって、残酷ですね……今までそんなこと、考えもしなかったけど」
俺はそう言って、濁った空を見上げていた。
あの事故が無ければ、今、俺はどうしてただろう?
そばにいる亜希に相変わらず想いを秘めたまま、変わらず普通に過ごしていた。
そう思う。
もし“神様”なんて存在があるなら、俺らを見て苛立ってたのかもしれない。
もっと素直に生きろって、悪戯したのかもしれない。
そのせいで、もう俺らは滅茶苦茶だ。
でも、感謝もしなくちゃいけないのかもしれない。
この当たり前になった、大事な想い。
それを誤魔化すなって、そういう意味もある気がする。
いつもそばにいた亜希は、今は少し遠いところにいる。