all Reset 【完全版】
正反対の願い
記憶が無くなったせいか、亜希は怒ることをしなくなった。
東京タワーに行く約束をした、あの日の出来事……。
迎えに行けなかったその事情を話せば、
「大丈夫だよ」
なんて、一切責めることをしなかった。
昔の亜希なら、一週間は口をきいてくれなかったと思う。
下手すれば、理由も信じてもらえなかったかもしれない。
秀とのことは、結局何も訊いてない。
あの日、二人の姿を見て逃げるように帰った俺は、引きずるように話を訊く勇気も無くなってしまった。
「終わったよ!」
「おう、お疲れ」
そんな亜希を連れて、今日は病院に来ている。
「噂をすればって、こういうことを言うのかしらね?」
亜希の後に続いて診療室から出てきた菅野先生は、俺を見るなりそう言った。
噂をすれば……って、誰と?
今日一発目の先生の言葉は、俺には全く意味不明だった。
「三日前かしら? 前田くんが来たのよ」
え…。
秀…が……?