all Reset 【完全版】
「え、秀が……ですか?」
「そうなのよ、突然ね」
先生はそれだけを言い、“何で来たか”という理由は話さなかった。
その空気に、俺も何となくどうして来たかと訊くのをやめる。
「どうですか? 亜希は」
「そうね、回復は順調だけど……相変わらず、記憶の方はね」
「そうですか……」
「早く……戻ればいいわね」
先生が何気なく言ったような呟きに、俺は「そうですね」と即答できなかった。
少し前なら、絶対考えられない。
亜希の記憶が戻れば……。
ずっとそう願ってた。
「最近……このままでもいいかなって」
「え……?」
つい、そんなことを言っていた。
それを聞いた先生の顔からは徐々に笑みが消え、とんでもないことを言ったって俺は瞬時に後悔した。
「あっ、治療してくれてる先生に言うことじゃないっすよね、すいません」
慌ててフォローしてみたけど、先生は複雑な面持ちは変わらない。
どうして俺がそんなことを言ったかなんて、先生にはたぶんわからない話だ。
「どうして……そんなこと」
「……俺、たぶん自己中な奴なんですよ」