all Reset 【完全版】
亜希が記憶を失ったとき、何としてでも消えたもの全てを取り戻させたいと思った。
消えた過去、思い出。
一緒に過ごしてきた事実が亜希の中から消えるなんて、幼なじみとして築いてきた関係がゼロになるなんて、絶対に耐えきれない。
あのときの俺はそう思った。
でも最近、亜希の記憶が戻らなければ……なんて思う自分が現れた。
もし記憶が戻らなければ、亜希はこのまま自分のそばにいつまでもいる。
そんなことを思う俺は、卑怯で汚いかもしれない。
でも記憶が戻れば、また前と同じ関係に戻る。
亜希が好きなのは……秀。
これだけ亜希を近くに感じてから前の関係に戻ったら、きっと物足りない。
俺は……
記憶が戻ることを拒み始めている。
「最悪っすよね……そんな風に、思うなんて」
自分の話をされてる亜希は、何もわからずに横でニコニコと笑っている。
「どうやら……あなたたちの考えは食い違っちゃってるみたいね」
「え? 食い違う……?」
「この間……前田くんは逆のこと訊いてきたわ」
先生は複雑な顔に笑みを乗せ、何とも言えない微妙な表情を作る。
ゴクリ。
自分の喉の音がダイレクトに聞こえた。
「記憶は、いつ戻るのかって……そう訊きに来たの」