all Reset 【完全版】
保つべき距離感
今日ここに来た良平は、いつものキャラを完全に失っていた。
聞けば、亜希のことでだった。
今日、例の彼女に聞いたらしい。
自分だけ知らなかった。
もちろんそれもショックだったと思うけど、何よりショックだったのは男がいたということだと察した。
俺は、たまに良平を羨ましく思う。
良平は、俺なんかより亜希のことを知っている。
俺の知らないずっと昔から、良平は亜希の傍にいた。
その時間があったという事実が、俺には羨ましい。
「いい子なんだよ、亜希が言ってた通り」
黙り合って静かだった部屋に良平の声が響く。
あの彼女のことを言っていることはすぐにわかった。
「でも……」
「……?」
「別れようと思ってる」
「……そっか」
遅かれ早かれ、いずれは良平がこう言いだすと予想はついていた。
初めから気の進む話じゃなかったし、当たり前のことだ。
良平は窓から離れ、フローリングの上で大の字になって寝そべる。
「……なぁ」
ポツリ。目を閉じた俺を呼び掛けた。
「亜希のこと、好きなんだろ?」
唐突な一言だった。