all Reset 【完全版】
顔を上げた亜希の表情は複雑だった。
雨のせいで誤魔化されてるけど、泣いていたのがすぐにわかった。
何が……あった?
何かがあったのは間違いない。
泣いて、場所も知らないここに辿り着くようなこと……。
記憶が無くなってから小さな子どもに戻ってしまったような亜希に、事情を知る人間たちは優しく接してきた。
だから亜希が悲しくて泣くようなことはしなかったし、亜希が笑ってられるようにそばで見守ってきた。
それなのに……一体何があったのか?
あらゆる方向に原因を考えてみる。
でも、思い付くのはとんでもないことばかりで、俺はこの場をどうしたらいいのかわからなくなりそうだった。
「……立てるか?」
改めて近くで見る亜希の顔は、白い肌が異常なほどに透き通っていた。
寒さにやられて、唇は縁から血色を失っている。
立ち上がる力も残されていない亜希に手を貸し、俺は部屋の鍵を開けた。