all Reset 【完全版】



それから三十分が経っても沈黙は続いた。


中に入ってから、亜希はベッドの端に腰掛けたまま黙り続けている。


間接照明で薄く光るフローリングの一点だけを見つめ、さっきと変わらず複雑な顔を保っていた。



部屋に入ってから普通に部屋を明るくすると、亜希はなぜか黙って蛍光灯のスイッチをきった。


その行動の意味は掴めなかったけど、気分的に明るいのが嫌だったのかもしれない。



濡れた髪の上にタオルを乗せても、亜希は静止したまま拭こうともしない。


「風邪ひくって」


そう言っても、亜希の耳には届いてないみたいだった。


仕方なくつけたばかりの煙草を消し、亜希の目の前に立って濡れた頭を両手で包み込む。


髪を拭かれてる間も、亜希はぼうっとした目で床を見ているだけだった。



「……ありがとう」



今日会ってから初めて聞いた亜希の声は、小さく弱々しくてほとんど消えかかっていた。



何かを言い出せば話は始まるかもしれない。


でも、どこから切り出せばいいかわからない。



亜希が放つ、ただならない雰囲気。



“何かあった?”なんて、訊く気にもなれなかった。



そんな想いで亜希の横に腰を下ろし、俺は沈黙を守った。



「……亜希…泥棒……なんだって」


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