all Reset 【完全版】
ポツリと亜希が呟いた言葉。
俺には全く理解ができなかった。
ただ、突然始まった話はどこか重たい内容だけを予想させた。
「返してって、言われた……良平くんのこと」
「……え?」
「亜希が……とったって」
俺の頭に例の彼女の顔が思い浮かんだ。
良平をずっと想っていた彼女。
別れを告げられた辛さの矛先が、亜希に向けられた。
それはわかる。
でも……どうして?
面数が多そうな話だけに、亜希が言うその一面だけでは話が読めない。
要するに、彼女と会ったってこと……なわけか。
彼女が亜希に『泥棒』なんて言ったことが、正直信じられなかった。
でも、亜希が嘘を言うわけもない。
「きっと……大事な人だったんだね? 良平くんが。その子、泣いてたんだ……」
思い悩んだように言う亜希の横顔は今も寒そうな色をしている。
雪のように白い肌には、血管の色が浮き出て見えていた。
「変な感じだったんだ……昔のこと、頭に出てきたみたいな」
「……少し、思い出した?」
「ううん……やっぱり駄目。思い出しそうなんだけど……出てこないの……」
亜希の記憶は、頭と心のどこかで眠り続けている。
何かが起こるたびに蘇る過去。
そのスピードが俺には歯痒い。
「ねぇ……秀くん」