all Reset 【完全版】
「……?」
「さっきから……考えてるの。でも……何も思い出せない」
「……何を?」
「亜希の……好きだった人」
その一言に、胸がぎゅっと締め付けられた。
息が止められたような圧迫感に神経が集中する。
確信はない。
でもたぶん……
亜希は……。
そう思っても、俺には何も答えることができなかった。
「わたし……秀くんのこと……好きだったの?」
そう言われて真横の亜希に目を向けると、亜希は戸惑いを露わににして俺の顔をじっと見つめていた。
「……そうなの?」
亜希……。
気付けば目を逸らしていた。
切実に答えを求める真っすぐな瞳を、それ以上見続ける勇気が無かった。
目を伏せ、このどうしようもない感情を押し殺す。
亜希が記憶を失ってから、幾度となく切ない気持ちにさせられてきた。
思い出せと言いたい。
二人が初めて出逢った日のこと。
いつの間にか、いつもそばで笑っていてくれたこと。
それだけでも構わない。
それだけ思い出せば……きっと、全てに繋がっていく気すらする。
どうして……
思い出せない?
苛立ちにも似た感情が押し寄せて、俺は必死にそれを抑え込んだ。