all Reset 【完全版】



揃えて隅に置いてある白い靴。


つま先の尖った、パンプス。



亜希のだ……。



「……来てんだろ?」


「あ?」



えっ?


何、コイツ……とぼける気?



“亜希”って主語が抜けてたってわかるはずの言葉を、秀はあっさりかわしやがった。



「……亜希だよ」



仕方なくはっきり言うと、秀はちらっと背後に目を向けた。


ドアの向こうの見慣れた空間。


奥に見える部屋は薄暗く静かだった。


その雰囲気だけで俺の脳みそは巧みな想像を繰り広げる。



はぐらかそうとする秀の態度……。


よく観察すると、何かぼんやりしてて、意識がどっかにぶっ飛んでるように見える。



つか、何してたんだよ……。


ほら、やっぱり焦ってるよ……俺。



「今日のとこは帰っとけよ」



はっ……?!



サクッと出てきた言葉に、俺は秀の顔を直視していた。



「お前と会ったら混乱すると思うから」



亜希から聞いたのか、秀は事情を汲んでるようだった。



俺のせいでこうなった。


でも、だからったって『はい、わかりました』なんて帰れない。


そんなの、秀にだってわかるはずだ。



「いや、でも、このまま帰れねぇし」


「わかるけど、とりあえず今日は帰れって。亜希はちゃんと送るから」



何だ? これ。


まるで彼氏面じゃん……。



「……邪魔するわ」



我慢いかなくなった俺は、秀を押し切って部屋に踏み込んだ。


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