all Reset 【完全版】
突然、亜希が勢いよく自分のバッグを掴んだ。
「ちょーっと、待った」
俺は反射的に亜希の腕を捕まえる。
「放して!」
「どこ行くんだよ?!」
掴んだ手に自然と力が入る。
その手を振り払おうと、亜希は弱い力で必死な抵抗を始めた。
微かに潤ませた目をして、キッと俺を見上げる。
「やだ! 放してっ」
「何で?!」
「おい、やめろって」
嫌々と首を振る亜希と、拒否られてむきになる俺。
そこに秀の止めが入った。
黙ったまま亜希を掴んだ俺の手を引き剥がす。
俺から解放された亜希は、一目散に部屋から飛び出していった。
「亜希!」
「亜希」
二人して引き止めるタイミングを失い、声がハモったと同時にバタンとドアが閉まる音が響いた。
「お前な……」
俺に呆れたように秀がまた深いため息をつく。
「……だから言っただろ」
そう言われても、俺には秀の声がほとんど入ってきていなかった。
言われた通りの結果になったわけだけど、それより亜希を追い掛けることで頭がいっぱいだった。
「おい、待てって!」
引き止める秀の声を背に、俺は部屋を飛び出した。