all Reset 【完全版】
彼女の一番
雨に降られたあの日から、亜希は顔を見せなくなった。
あのとき、尋乃から奪ったスマホを返しそびれて連絡を取る手段がなかった。
仕方なく家まで行ってみると、熱を出して寝込んでるとおばさんに言われ、亜希と会うことはできなかった。
きっと、尋乃に言われたことのショックを引きずってる。
それも顔を合わせたくない理由だと俺は思っていた。
その代わり、おばさんとは色々話した。
「ただの風邪だと思うけど、熱が下がらないのよ」
なんて、心配そうに言っていた。
それからすぐ、続けてこう言った。
「そのおかげなんて言っちゃ、変だけど……――」
高熱を出してる中で、記憶が蘇ったような言動や行動が見られる。
熱を出したのが引き金になって、記憶が戻るかもしれない。
おばさんはそう言った。
そんなおばさんの話し方は、心配より嬉しさの方が勝っているようだった。
もちろん、完全じゃない。
でも、もしかしたら何かの拍子に思い出すかもしれない。
おばさんは期待するようにそう言った。
その話を聞いて、俺は複雑な心境になった。
本当は喜ぶべきことかもしれない。
でも、やっぱり素直に喜ぶことができなかった。
そんな自分に腹が立ったし、最悪だとも思った。
だから今日、俺は秀のとこに来たんだと思う。
これはもう、時間の問題だと悟った。