all Reset 【完全版】
「……お前は、それでいいわけ?」
「いいも何も、そんなのねぇだろ」
後頭部を向けたまま、良平はその場に座り込んだ。
あぐらをかき、ポキポキと指の関節を鳴らし始める。
「俺に気ぃ使って悪いとか思ってるわけ? それとも……まだ余裕こいてるわけ?」
それは……どっちでもない気がする。
もし本当に気を使ってたら、俺は亜希から完全に離れたと思う。
良平が亜希を想ってると知った高校時代。
あの時点で引き返しを試みたと思う。
でも、それはできなかった。
後々こうなるとわかりきっていて、亜希を好きになっていった。
余裕をこいてた自分だって、もういない。
今こうなって、自分の愚かさに何度も嘆いた。
誰かを本気で想うとき、そこに余裕なんてものは存在しない。
あるとすれば、それは意地と強がりで出来上がったものを“余裕”という二文字だと勘違いしてるだけのことだと思う。
どんな優れた人間でも“本物の余裕”なんか持ち合わせてる奴はきっといない。
「少し離れて……時間かけて考えてみようと思ってる」
良平の切ない気持ちは、はっきり読み取れる。
それまで感じなかった様々な想いが、逆の立場になってから痛いほどわかるようになっていた。