all Reset 【完全版】
「それも、やっぱり忘れちゃったんだ……わたし」
「いや……言ってないんだ。今まで……言ったことない。言えなかった」
「どうして?」
相変わらず子どものように「どうして?」なんて亜希は首を傾げる。
「何か……言えなかったんだ」
それには、一言じゃ済まない訳がある。
はっきりとした答えなんて、自分にでも説明できない。
「じゃあ……戻ったら!」
いきなり元気な声を上げ、亜希はぐいっと俺の腕を引っ張る。
大きな瞳に、キラキラと眩い光の粒が映り込んでいた。
「亜希の記憶が戻ったら……また、言ってくれる? 好きだって」
そう言って、恥ずかしそうに笑った亜希。
俺がずっと好きだった、あの笑顔を見せていた。
亜希と出逢ってから、初めて人を本当に好きだと思う気持ちに気付かされた。
それは偶然で、もしかしたら一生知らずに終わったことかもしれない。
亜希に出逢ったから、出逢えたから、俺はそれを知ることができた。
よく考えれば『好き』なんてそんな一言じゃ片付かない。
でも、必ず言う。
ずっと好きだったって、必ず伝える。
自分の口から、
必ず……。
約束する。
記憶が戻ったら……か。
そんな日が来るのも……あと、少しかもな?
「……わかった。約束する」
溢れそうな気持ちを抑え、俺は繋いだ手を握り締めた。
「あれ……何、これ」
何かに気付いたように亜希が空を仰ぐ。
つられて見上げた空には、無数の結晶が光を浴びて舞い降りてきていた。
「雪だ……」
「……ゆき?」
初めて見るもののように、亜希は不思議そうに空を見上げていた。
遥か天から舞い降りてくる白い粉は、なぜか、俺には温かかった。