all Reset 【完全版】
「ナイスキャッチ!」
亜希がそう言ったとき、投げられたボールは俺の手にしっかり受け止められていた。
飛んでくれば受け止める。
本能みたいになってる俺の行動を、亜希は「すごいすごい」と笑って褒めた。
「ねぇ、入れてみて?」
亜希はそう言ってゴールを指差す。
俺はその場に突っ立ったまま、行っては帰ってくる球体を見つめていた。
ダンッ、ダンッ――
叩きつけられるボールが床を響かせる。
何か引っかかる。
違和感を感じる。
そう思いながら、俺は黙って亜希の要求に応えていた。
でもさ、これ入れたら……その後、何話すわけ?
入れていいわけ?
わざと外して、笑っとく?
計画的流れがもやもや頭を占領しだしたとき。
一瞬の停止時間――
無音の体育館に、シュッっとなめらかな音が広がった。
「すごい! 入った!」
結局、入れちゃったし……。
ゴールネットをすり抜けたボールは、床に弾けてバウンドを繰り返していた。
高く跳ね上がり、少し低く、また低く、床に届く距離が縮まっていく。
そのうちコロコロと力無く転がっていった。
振り返れない……。
亜希が真後ろまで来ているのを感じると、それは余計に増していく。
結局、俺は一言目が見つからないままだった。