all Reset 【完全版】
「良、ちゃん……?」
「……ストップ。三十秒。いや……十秒でいいから」
完全に魔法が解かれるカウントは、今までで一番重い数秒に感じられた。
亜希の記憶喪失は衝撃的な出来事だった。
でも俺にとって、かけがえのない時間でもあった。
こんなに亜希が好きだった。
それを素直に受け止められた。
これで……本当に最後……。
「……秀に、ちゃんと言えよ」
目の前にある頭に俺はそう言った。
同じことを秀にも言った。
でも、あのときより何十倍も苦しい。
亜希を、秀の元に行かせる。
そのために背中を押す。
これが……
亜希を想う俺が……
最後にしてやれること……。
亜希が好きだから、秀が大切だから。
だから……
後悔なんてしない。
亜希を好きになったこと。
俺は、この気持ちに見返りなんか求めない。
「いい加減、じれったいっての!」
顔を見ないように亜希から離れる。
それから、顔を見られないように背を向けた。
「……早く行けよ。微妙だし、この状態」
静かに遠退く足音に耳を傾けながら、黙って高い天井を見上げていた。