all Reset 【完全版】
「なんだー…良ちゃんか。おはよ」
振り返ると、そこに立っていたのは良ちゃんだった。
息を切らして膝に両手をつき、肩で呼吸している。
「なにー? その疲れっぷり」
怪しむような言い方で良ちゃんを覗き込む。
顔を上げた良ちゃんは愛敬のある笑みを浮かべた。
もしかして……また遅刻?
「ねぇ、また一限出てないんでしょー?」
お見通しって顔で言うわたしに、良ちゃんはあからさまにギクッと反応する。
「いや、それにはかなり深いわけが……」
「わけ?」
また始まった……。
そう思いながらも一応訊き返してみる。
「おう。実は、来る途中で……妊婦の人が道でうずくまってて」
「ふ~ん……」
「だから、その人を病院まで……」
みるみるうちに気まずそうな顔になっていく良ちゃん。
わたしは呆れてハァと思いっきりため息をついていた。
「あのさ……もうちょっと、芸のある言い訳できないの?」
「ちょっと待てよ、マジマジ。超マジなんだけど」
「本当にそうだったとしても、信じれないかも……」
「はぁー? 何でだよ?!」
「何か微妙にリアルで笑えないし」
「あのなぁ…俺だってな! そんな人がホントにいたら病院まで付き添うし!」
「だったら、寝坊の言い訳にそんな冗談言わないことだね」
そこまで言って、良ちゃんはやっと諦めたみたいに反論をやめた。
やった、勝った。
一生懸命な良ちゃんを見て、わたしは思わずププっと笑った。
佐伯 良平(サエキ リョウヘイ)。
わたしが“良ちゃん”と呼ぶ彼とは、もう大分長い付き合いになる。