all Reset 【完全版】
記憶を失ったわたしは良ちゃんを好きになった。
良ちゃんに恋をした。
いつも一緒にいてくれて、優しくて……。
怖いものなんかないって、安心させてくれた。
こんなに一緒にいたのに、今までわたしは何を見てたんだろう?
良ちゃんの優しさも、温かさも、強さも、わたしはちゃんと見てきた。
いっぱい見てきた。
それなのに、見てなかったみたいだよ……。
ううん……違うね……。
ちゃんと見てた。
見てたんだ……。
でもね、わたしにはきっと、当たり前になってた。
見すぎだったんだ。
良ちゃんのいいとこ、当たり前になってた。
それが良ちゃんだって、当たり前にわかってることだったんだ。
当たり前だったから、馬鹿なあたしにはポイントになっていかなかったんだ。
得点にならなかったんだ……。
……どうして?
今更、それに気付いたからって……。
どうしろって言うの?
記憶を奪って苦しめて……戻ったらこんな気持ちにさせられて……。
まだ物足りないですか?
わたしは、そんなにいけないことをしましたか?
どうしたらいいですか?
寒空を見上げて、訴えるように心の中から問い掛ける。
でも、返事なんかもちろん返ってこない。
『自分で考えろ』
暗い色の空は、そう言っているみたいだった。
見捨てられて、独りぼっちの気分になった。
そんなわたしの心に、次に現れたのは秀だった。
眩しくて明るい、あの日の朝が蘇った――。