all Reset 【完全版】
誰も知らない言葉
わたしの、
バカ……。
思わず “くん” なんてつけてた。
そんなつもりなかったのに……。
いつもの秀の声。
昔から知ってる、落ち着いた優しい声。
それが聞こえたら、わたしは急に臆病になった。
秀はわたしの記憶が戻ったことをまだ知らない。
『……亜希?』
わたしの名前を呼ぶ懐かしい声。
当たり前だった呼び掛けにも苦しくなる。
耳に当てたスマホを握り締めてぎゅっと目を瞑った。
『どした? 今、外にいる?』
そう訊いた秀も外にいるみたいだった。
風が吹く音が受話器から聞こえてくる。
「……うん」
『そっか……』
それから静かな沈黙が流れた。
わたしも秀も示し合わせたように何も言わない。
黙りあって、相手の反応を待つみたいな状態が続いた。
何のためにわたしは電話をかけたの?
会いたいって言うためじゃなかったの?
『どこにいるの?』