all Reset 【完全版】
そう訊かれて、目の前に広がる黒い海を眺めた。
東京の黒い海は小さな波を作り、白すぎる人工的な砂を濡らしている。
あの日のわたしみたいに、ヒールの靴で覚束無い足取りをしてる女の子と、その子の手を引く男の子が歩いていた。
今日、秀に会って言おうと思ってた。
『クリスマスに会ったとこで待ってる』
そう言おうと思ってここまで来た。
でも、今日は無理だ。
出だしから自爆しちゃったよ……。
「今、ね……お買い物に来てるの」
わたしの口調は自然と記憶喪失だった頃を演じていた。
何してんだろ……
馬鹿みたい……。
心の中で自分を責めながら俯いた。
『一人?』
「ううん……お母さんと一緒だよ」
嘘ばっか……。
『そっか』
「うん……」
『……そういえば、今年初めてだな? 話すの』
「あぁ?! そうだった。明けましておめでとうございます……」
わたしの慌てた声に秀は仕方なさそうに笑う。
『おめでと。今年もよろしく』
「うん……こちらこそ」
何か、変……。
毎年カウントダウンは一緒にいたり、そうじゃなかったら十二時ぴったりにメールをしたりしてた。
こんなの初めてだった。