all Reset 【完全版】



……あ、れ?



微かに聞こえる風の音。
ツーツーという音もしない。


そのうち聞こえてきたのは、秀のクスクスとくすぶらせるような笑い声だった。



『裏切り者だ』



切れてない電話の向こうから秀の穏やかな声がした。



「もうっ、やっぱり切らないじゃん」


『ごめんごめん。じゃ、ほんとに切るよ』


「そうだよ。怒っちゃうよ?」



そんな可愛げないことを言ったけど、何だか嬉しかった。


些細なことだけど、それでもほんわかした気持ちになる。


くだらないこんな会話もかけがえのないものに思えた。



『……じゃ、またな?』


「うん、またね……」



今度こそ電話は切れた。


でも、不思議と今度は寂しくなかった。


秀の声が耳の中にしっかり残って、まだ聞こえてるみたいだった。



顔を上げると、さっきとは違うカップルが歩いていた。


頭一個分の身長差がある二人は、仲良さげに手を繋いで歩いていく。


小さい彼女に彼が笑いかけて何か話してる。



ほんわかした幸せな余韻を残しながら、わたしはそんな二人を眺めていた。





明後日……。


秀は帰ってくる。



そしたら……今度こそ、今度こそ言う。



記憶が戻ったこと。





それから……


あたしの気持ち。





秀に……伝える。


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