all Reset 【完全版】
「ほんと、すみませんでした。志乃さんにも……いろいろ迷惑かけちゃって」
記憶が無くなりました。
そんなことを聞かされたら誰だって困る。
「……迷惑? どして?」
志乃さんの手がぴたりと止まる。
顔を上げ、わたしを真っすぐ見つめた。
「え、何か……全体的に」
どう言ったらいいのか分からなくて、もやのかかったような曖昧な答えを返してしまう。
「本当にそう思ってる? 迷惑かけちゃったとか」
「それは……はい」
何だか申し訳ないような気分で答えると、志乃はふぅっと軽く溜め息をつく。
「だったら、そんなこと思わないでね」
「え……?」
「それって、ショック。心外って感じ」
志乃さんは悪戯っぽく笑って手を動かし始める。
また小さくため息を吐いた。
「わたしが思ってないんだから、亜希ちゃんはそんなこと思わなくていいの。わかった?」
志乃さん……。
「はい……」
泣いちゃダメだ……。
そう思っても涙が流れそうだった。
堪えきれなくなっていた。
黙ったまま俯いて、こぼれそうな涙を落とさないように目を開けっ放しにする。
気遣いなのか、志乃さんは声も掛けないでわたしを放っておいてくれた。
店内にかかる洋楽のリズムだけがわたしの耳を占領していた。