all Reset 【完全版】
「ん?」
「……志乃さん今、好きな人いる?」
「えぇ? どしたの? 急に」
志乃さんは“何を言い出したの?!”みたいな顔をしてこっちを見る。
「あっ……唐突でしたね」
秀のことを考えてぼうっとしていたら、いつの間にかそんなことを志乃さんに訊いていた。
いかんいかんと思い、アハハっと笑ってみる。
志乃さんはそんなわたしににこりと微笑んだ。
「好きな人、か……」
ピンセットの先に真剣な視線を送りながら志乃さんは呟く。
「タイミングいいな、亜希ちゃん」
「え? タイミング、いい?」
訊き返すと、志乃さんはわたしの爪に集中しながらまたにこりと笑みを浮かべた。
「わたしね……実はもうすぐ結婚するの」
「えっ、うそ!」
「ほんと」
結婚……
志乃さんが……結婚?
告げられたその二文字は、わたしには未知の世界だった。
「えぇー、おめでとうございます!」
「あ、ありがと。何か照れるな」
そう言った志乃さんは本当に照れているのか手先を休めなかった。
ひたすら細かい作業を続ける。
でもその真剣な顔はどこか綻んでいて、幸せそうな表情になっていた。