all Reset 【完全版】
「……え?」
「少し、遅くなるけど……すぐ行くからって」
灯り始めた外灯に照らされ、亜希の表情は夢の中にいるように優しかった。
「だから……ここで待ってなくちゃ」
現実を見せることができそうになかった。
本当は、すぐにでも連れて行かなきゃならない。
突き付けられた現実は、俺を生きながらにして殺していた。
「亜希……秀は、」
「来るよっ!」
聞きたくない!
そう言わんばかりに亜希は立ち上がった。
言い張る口調と強い眼差しは、事実を受け入れないと物語る。
「来るもん……秀は、来てくれるよ」
自分に言い聞かせるような台詞。
でも目にはいっぱい涙をためて、今にも流れ落ちそうだった。
訴えるような目で凝視されても、俺に次の言葉は見つからなかった。
「ねぇ……そうでしょ?」
嘘は……言えない。
今ある現実から背くように、俺は亜希から目を逸らした。
「……何で……そんなこと言うの? ねぇ、良ちゃん! ねぇ?! どうしてっ?!」
俺の胸元を弱々しく叩き、亜希は錯乱する自分を抑えなかった。
涙のダムは完全に決壊していた。
「うそっ……ばっか、言わない、でよ……、良ちゃん! ねぇ!」
足元で泣き崩れた亜希に、俺は何も言うことができなかった。