all Reset 【完全版】
霊安室という場所に入るのは初めてだった。
ひんやり冷たい空気の薄暗い部屋。
線香の匂いが鼻をつく。
一歩足を踏み入れて、これ以上は入りたくないと思った。
本当に、そこに横たわるのが秀なのか?
目の当たり寸前になっても俺には信じられなかった。
とぼとぼと枕元に歩いていく亜希は、しっかりと目を開いてその光景を見つめていた。
顔にかかる白い布切れ。
これを取ったら……ほんとに秀の顔なわけ?
見るまで、信じられない。
そう思っても、手を伸ばしかけて躊躇う。
手先がこんなに震える感覚を、俺は生まれて初めて体験した。
「う、そ……」
亜希のかすれたその声で目を開ける。
見たくないという意識が勝手に働いて、俺は布に手をかけながら無意識に目を閉じていた。
そこにあったのは、見間違えるはずもない秀の顔だった。