all Reset 【完全版】



霊安室という場所に入るのは初めてだった。


ひんやり冷たい空気の薄暗い部屋。


線香の匂いが鼻をつく。



一歩足を踏み入れて、これ以上は入りたくないと思った。





本当に、そこに横たわるのが秀なのか?




目の当たり寸前になっても俺には信じられなかった。



とぼとぼと枕元に歩いていく亜希は、しっかりと目を開いてその光景を見つめていた。



顔にかかる白い布切れ。



これを取ったら……ほんとに秀の顔なわけ?



見るまで、信じられない。



そう思っても、手を伸ばしかけて躊躇う。





手先がこんなに震える感覚を、俺は生まれて初めて体験した。







「う、そ……」






亜希のかすれたその声で目を開ける。



見たくないという意識が勝手に働いて、俺は布に手をかけながら無意識に目を閉じていた。





そこにあったのは、見間違えるはずもない秀の顔だった。


< 384 / 419 >

この作品をシェア

pagetop