all Reset 【完全版】
お客さんが三人、店員さんも三人。
向かい合わせになって座っている。
壁には、インテリアと実用を兼ねたカラフルな業務用マニキュアがグラデーションしていくつも並んでいる。
アジアンテイストを基調とした店内には、ほのかにチャンダン香の香りが漂う。
ノートに描かれたデザイン画を見ながら、志乃さんは慣れた手つきで3Dアートをしていく。
奥秋志乃(オクアキ シノ)さん。
ここに通うようになってからずっと指名している、大好きなネイリストさん。
わたしより年上の二十四歳で、オシャレな雰囲気を持ったきさくな人だ。
お店に来ると、ネイルをしてもらってる一、二時間は平気で話をしている。
わたしにとって志乃さんはお姉さん的存在。
勝手ながらそう思わせてもらっている。
何より、わたしは志乃さんのセンスの良さに惚れてしまった。
「今日って、亜希ちゃんの誕生日じゃないよね?」
描いてきたデザイン画を見ながら、志乃さんが尋ねてくる。
クリアラメをベースに、ポップな配色のストーンと星のアートを乗せた注文。
そのデザインには、左手の中指に『4・27』の数字を入れたいとの書いてある。
「誕生日じゃないしな……何だろ?」
志乃さんは「んー…」と悩みながら星のアートを続ける。
文字を入れるのはこれが初めて。
自分のイニシャルとか、彼氏のイニシャルを入れる人がいるのは知ってたけど、あたしの場合、今日の日付なわけだ。
「あ、わかった!」