all Reset 【完全版】
わたしが呼ぶと秀は一瞬立ち止まり、こっちに気付いて笑みを浮かべた。
その優しい表情に少しだけドキッとする。
「ちょっと、聞いてよ」
わたしが秀に近寄っていくと、良ちゃんは「ちょっと待てよ」と背後にくっついてくる。
「何、またサボり?」
秀はわたしが何を言いたいのかお見通しのように訊き返した。
「そう。でもさ、その言い訳、何て言ったと思う?」
「おい! いちいち報告すんなって」
良ちゃんは横で大騒ぎ。
そんな良ちゃんをチラリと見、秀は考えるように小首を傾げる。
「……踏み切りが、開かずの踏み切りだったから。とか?」
おしいっ!
なかなかいいとこをついてくる秀。
さっすがだね……。
「あー、それは前々回の言い訳だね。今日はね、『妊婦の人が道にうずくまっててー』だって」
良ちゃんの口真似をして言ってみる。
さらに「ねー?」と認めるように促してみた。
「へぇ~、お前もよく毎回思いつくな?」
「はぁー? それ嫌味かよ」
やれやれって顔で笑う秀に対し、良ちゃんはむっとした顔で秀を睨む。
またもや、秀の勝ち。
前田 秀(マエダ シュウ)。
秀とは高校に入学してすぐ知り合った。