all Reset 【完全版】
西日が射し込む車内。
走り出すたび、開けた窓から空気の入れ替えがされる。
あれからすぐ、秀は家を出てきた。
今から亜希を約束の場所に迎えに行く。
「ビンゴ?」
ずっと喋らない秀に、俺は話を蒸し返すつもりでそう言った。
軽いタッチで訊いたのに、無言で窓とカーテンまで閉められる始末。
出てきたと思ったら「声でけぇよ」の一言。
これは追求してやろう。
くだらない意地悪心が更に膨れ上がった。
本当はどうだっていい。
秀に女がいようがいまいが……。
「……いねぇよ」
うんざりしたように秀は言葉を返す。
言ってすぐ、ハァとため息を漏らした。
「お前、昔からそうだよな? 絶対俺に話さねぇし」
そう言うと一瞬沈黙が流れた。
並んで走ってくる車を横目で追いながら、俺も負けじと黙る。
「そう言ったほうが楽なんだよ」
「……楽? 何それ」
「だから、ああやって訊かれて、いないって言うと面倒ってこと」
はー……そういうことね。
「なるほどね……」
場数を踏んでついた知恵……か。
秀は女にモテることを鼻に掛けたりしない。
昔からそうだった。
男の俺が見て思ったりするのは気持ち悪いけど、秀は俺から見てもかっこいい奴だと思う。
男前な奴だ。
目鼻立ちの整った顔立ち。
すらっとした細身の体格。
とにかく、全体的にセンスがいい奴だ。
『良平先輩の方がかっこいい』
なんて尋乃は言うけど、正直、秀にはかなわない気がする。
俺だって、黙ってれば然程問題はない(はず)。
でも、そういうんじゃない。
秀には独特の雰囲気ってやつがある。
それは、俺にはどうしたって真似できない。
少し謎めいた、人を惹き付ける何か……。
秀にはそれがある。
俺とは正反対みたいな人間、キャラってやつだ。