all Reset 【完全版】
「なぁ……例え話だけどさ」
少し沈黙になっていたのを俺の方から破った。
でも、続きが出てこない。
脇見をするように秀がこっちを見たのが視界に入る。
「何? 例え話って」
続きを要求され、俺は自分から振った話に押し黙った。
たまに、訊いてみたくなる。
『もし、俺が亜希に好きだって言ったら……お前どうする?』
でも、いつも訊けずに終わる。
俺が亜希を幼なじみ以上に好きだっていうことを、秀は何となく気付いてる。
でも、決して認めなかった。
意地を張ってでも隠し、誤魔化してきた。
『例えば』なんて前置きをしても、全部見透かされる気がする。
絶対、自分の本心は言えない。
言いたくなかった。
秀が亜希を密かに想っていることも、亜希が秀に対して、自分とは違う感情を持ち合わせてることも感じてきた。
それでも自分の気持ちが変わらないことに、苛立ちを感じたことも何度もあった。
何で秀なのか?
どうして亜希を好きになったのか?
そんなことばっかり頭を駆け巡って、嫌気が差す。
偽りの気持ちで尋乃と付き合い、感情をコントロールしてるつもりでも、亜希の何気ない仕草に心が揺らぐ。
人には偽れても、自分の気持ちを偽ることはどうしてもできなかった。
「いや……何でもない」
「何だよそれ」
「忘れた。思い出したら言う」
また訊けずじまいで話は終わる。
俺は適当な返事をした。