all Reset 【完全版】
部屋に入ると、検査の結果と思われるレントゲン写真が何枚も貼られていた。
その透過像は、違いがよくわからない頭の画像が何個も何個も並んでいる。
さっきの看護師が椅子を三つ用意していた。
今から告げられようとしている事実が、簡単な話じゃないって物語ってるみたいだった。
俺はまだ、心の準備ができていない。
たとえ一時間先に延ばしても、何時間先でも、聞ける勇気なんていつまで経っても湧かないと思う。
対面して座る、さっきの女医。
糊の利いた白衣には、『菅野(スガノ)』と書いてあるネームプレートがついていた。
「検査の結果なのですが……」
レントゲンから目を離した先生は、顔色一つ変えず話を切り出した。
その一言が心臓の動きを自然と速まらせる。
「事故による頭部の外傷は見られますが……機能的な異常などは特に問題はありません。レントゲン上でも見当たりません。ただ……」
……ただ?
「……健忘症の可能性が大きいかと」
ケンボウ…ショウ?
「先生、健忘症って……」
おばさんの動揺が空気を介して伝わってくる。
しんと静かな部屋の中、時間が止まったような錯覚を起こしかけた。
「記憶喪失、という言葉はご存じですよね」
記憶……喪失?
「嘘…だろ……」
俺はあまりの衝撃にそう口走っていた。
笑いそうになった。
変な笑いが込み上げてくる。
有り得ない……。
記憶が……なくなった?
そんな話……ドラマとか映画の話だろ?