all Reset 【完全版】
第四章 記憶のカケラ
動き出した時間
日中になると日差しが強く、夏の陽気みたいな湿った暑さを感じさせる。
五月後半。
良平に「頭を冷やせ」と言われたあの日から亜希には会っていない。
でも、一日たりとも亜希を想わない日は無かった。
良平にはあれから何度か大学で顔を合わせた。
いつもの調子で違和感もなく、第三者から見れば普段通りの様子でしか見えなかった。
「亜希に会いに行ってやれよ」
ただそう言われた。
でも俺は、亜希に会うのが正直怖かった。
あの日、病室で見た亜希の表情。
涙を溜めて、怯えたような目をして……。
その亜希の顔が何度も何度も頭の中で行き来していた。
こんなに長い期間、亜希に会わないことなんて今までない。
俺はかなり長い時間、現実から、いや……亜希から逃げていた。
でも、もうそれはできない。
亜希から遠ざかっても、俺の中で亜希は遠ざからない。
時間が解決することでもない。
ちゃんと亜希と向き合う。
答えはとっくに出ていた。