all Reset 【完全版】
一歩ずつ、亜希との距離が縮まる。
あの日と変わらない、病室に書かれた名前。
きっとまた、不思議な顔をして俺を見るんだろう……。
扉を開ける手は少しの勇気が必要だった。
部屋はあの日と同じ、日差しが眩しいほどに入り込んでいた。
ただ違っていたのは、亜希が窓から外を眺めている姿が目に飛び込んできたことだった。
着ている、白いワンピース。
記憶を失う前、大学に着て来ていたのを憶えている。
いつも巻いていた髪も今はストレートで、同じ服を着ていても全く違って見えた。
光を吸収して髪に白い艶が浮かんでいる。
気配を感じたのか、亜希がパッと扉の方に振り返った。
何も言わず、じっと俺の顔を見つめる。
久しぶりに見る、亜希の顔。
俺の知っている化粧をした顔じゃなく、何だか幼く見える。
視線が痛い。
静かなこの空間で、二人。
俺は、言葉が見つからなかった。
……何を言えばいい?
言いたいことは山ほどあった。
でも、その全てが今の亜希には伝わらない。
そんな思いが邪魔をする。
真っすぐなその瞳から思わず目を逸らしたくなったそんなとき、幼く見える亜希の顔がにっこりと笑顔へ変化した。
身体が静止する。
目を逸らすことなんかできなくて、感じたのは自分の鼓動の大きさだけだった。
その音だけが部屋中に響いている錯覚に陥る。
亜希は、記憶がない……。
それすら一瞬忘れさせ、あの事故の前にトリップしかける。
でも……。