all Reset 【完全版】
事故直後、亜希は今後一切、話すことなんてできないんじゃないのか……そんな予感すらさせた。
言葉にならないことを口にし、泣いたり、叫んだり、これから話すようになる赤ん坊とまるで同じだった。
亜希を見ていて、今でも少し辛くなる。
ときどき思う。
全てを忘れてしまった亜希より、この現実を受け入れなくちゃいけない自分たちの方が、よっぽど辛いんじゃないか……なんて。
「良平くんは、亜希の……家?」
「知ってるよ、よく知ってる。亜希の家には、昔から遊びに行ってたから」
母親同士が仲が良かったから、亜希の家にはよく遊びに行っていた。
可愛らしい造りの一戸建。
たぶん、おばさんの要望なんだと思う。
庭には季節ごとにたくさんの草花が生き、四季で様々な表情を見せる。
趣味がガーデニングというおばさんの手入れで、その場所はいつも綺麗に保たれていた。
だから、亜希も昔から花が好きなんだと思う。
今週末の退院に向けて、おばさんは庭の手入れにも力が入っているんだろう、なんて俺は勝手に想像していた。
「ねぇ、良平くん……」
その呼び方に違和感を感じる。
亜希は記憶を無くしてから人が変わった。