all Reset 【完全版】



「何?」


「……良平くんは、何でも知ってるね?」


亜希は満面の笑みを浮かべてそう言った。


その表情には素直な気持ちが溢れているように見える。



……そんなことない。



亜希の全てを知ってるわけもないし、知らない部分だってたくさんある。


ただ少し、俺は亜希といた時間が長いだけ。


でも、全てを忘れてしまった今の亜希には『何でも知ってる』と思われても不思議なことではなかった。



「亜希がわからないこと、もっと教えてね?」


「おぅ、任せとけ」




そんな俺も、

人が変わった気がする……。



亜希が記憶を無くしてから、素直に優しくなれた。


亜希が記憶を無くしてから、『亜希』とちゃんと呼べるようになった。




それに……


亜希を真っすぐ見れるようになった。




「亜希に『良平くん』とか呼ばれるの、何か変な感じすんな」



そう言うと、亜希はまた首を傾げる。



「前はさ、『良ちゃん』とか『良平』って呼んでたんだよ、亜希は」


俺はそう言って、亜希の頭をぽんぽんと優しく撫でた。


その手でそのまま、亜希を抱き締めたくなる。


そんな衝動にかられた。



俺は……やっぱり亜希が好きだ。



記憶が無になっても、その気持ちだけは変わらない。



先生は言っていた。


記憶を突然、取り戻すかもしれない。


それは医者である自分にもわからないし、誰にもわからない……と。


全ては未知で、先は見えてない。


今、明日、明後日……。


何かの拍子に記憶が戻ってくるかもしれない。



それとも……永遠に戻らないかもしれない。



でも……


俺は亜希のそばにいる。



それだけは、何があっても変わらない。





「来てたんだ」



声がして振り向くと、開いた扉の前に秀が立っていた。


< 79 / 419 >

この作品をシェア

pagetop