all Reset 【完全版】
そんなことを考えているうちに授業は終わっていた。
教授の白髪頭が出口の扉を目指して動いていく。
ふと横を見ると、尋乃がむっすりして俺を見ていた。
あ、花火がどうとかって話か……。
「花火さ、去年、亜希が行きたいっていうから付いてってやったんだけど、ほっんと行くとこじゃないってかんじでさ」
去年の夏、東京湾の花火大会に行ったのを思い出した。
秀がバイトで行けなくて、亜希と二人で観に行った花火。
どっかのバーゲン会場並みの人の量で、倒れそうになったくらいだった。
はぐれないようになんて亜希がTシャツの裾を掴んで離れなかったことに、
「のびるだろ」
とか文句を言いつつ、ちょっと嬉しかったのを思い出す。
俺は、尋乃を少し警戒してるのかもしれない。
二人で出掛ける気になれなかったし、今は亜希のことで頭がいっぱいだった。
尋乃にも、今の亜希の状態は話していない。
大学で見掛けなくなって電話をしても繋がらないと心配して訊いてきたけど、事故で入院してるとだけと答えた。
心配無い、って。
「亜希先輩と行ったんですか。いいなぁ……」
口を尖らせて尋乃は言う。
尋乃は、あの日の出来事から強欲になった。
自信がついたのか、前の控え目さが失われつつある気がする。
『良平先輩、亜希先輩の話ばっかり』
この間、頬をぷうっと膨らませて尋乃は言った。
亜希が記憶を失ってから、俺は自然と亜希のことばかり考えている。
会話に亜希の名前がよく出されることが、尋乃からしたら不満なのかもしれない。
「まだ時間あるしさ、何か考えといてよ」
俺はその場逃れでそう言った。