all Reset 【完全版】
そんな風に記憶が戻るなら、亜希の記憶を取り返したい。
両手をかざして眺める亜希を見ながら、俺はそう思っていた。
「またやりたいか? ネイルアート」
良平が訊いた。
すると、亜希はすぐさま大きく頷く。
「やりたい! 志乃さんにまた会えるんだ」
「シノ…さん?」
見ていた雑誌を閉じて良平が訊き返す。
「うん。志乃さんだよ!」
「……シノ、さん…」
亜希に向いている良平の疑問顔が、答えを求めるように俺に向けられる。
「その憶えてたっていう、担当の人のことじゃん?」
「おぉ、なるほどね」
「ねぇねぇ! いつやるの?」
亜希は大きな目をより大きくして俺らの会話の割って入る。
物凄く嬉しそうだ。
「おばさんに訊いてみて、いいよって言われたらな。そしたら秀と俺で連れてってやるよ」
「良平くん……おばさん、って?」
「あぁ、ごめん。亜希のお母さん」
あっ、って顔になって、良平は改めて言い直す。
同じ意味を差す言葉でも、亜希にはまだ通じないことが多い。
「じゃあ、お母さんに訊いてくるー!」
ハートのクッションを俺に押し付け、亜希はスキップをして部屋を飛び出していった。