ビターチョコレート
帰りたい…心からそう思った。

嫁にもいかず定職についていない、実家暮らしのアラサー。

税金も健康保険も年金もきちんと毎月支払っているというのに、なんなんだ?この後ろめたさは。

外資系IT企業でバリバリ働きスタイリッシュなシティライフを送るみっくんとの差をまざまざと見せつけられた。

「職場は?」

「新宿です」

なおも質問してくるみっくんにうんざりして口調も少し投げやりになってしまった。

「辻堂の実家からでは遠いでしょ。何故ひとり暮らしをしないのですか?」

それは都心でひとり暮らしするほど稼いでないからですよ。

…なんて言える訳もなく私は苦笑いを浮かべて誤魔化す。

「そもそも三十過ぎて親と一緒に住むなんて不自然な話ですよね。人間も動物と一緒ですから成人になれば自立するよう本能に組み込まれていると思うのですが」

その理論でいくと私は自然の力に相反する不自然な存在ということになる。

なによ、人の事情も知らないで。

私は口をつぐんだまま俯いた。
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