ビターチョコレート
大通りから一本入った路地にお店はあったので、人通りはまばらだ。

しかしヒールで必死に走るアラサー女子はやはり異質で、すれ違う人の視線を感じる。

途中、近道をしようと児童公園を横切っていく。

ブランコとすべり台、砂場しかない簡素な公園だった。

不意にヒールが石に引っかかった。

しまった!

そう思った時にはすでに遅し…

私の身体はふわりと宙に浮き、引力の定義に定められた通りにそのまま前にバタリと倒れた。

「い…たぁい」

ヒールは脱げてしまい、勝負服だったオフホワイトのワンピースも汚れてしまった。

手に着いた土を払いながら私はのろのろと上半身をおこす。

膝と手のひらには擦り傷が出来て血がにじんでいる。

お酒を飲んで走ったせいか頭がクラクラして直ぐに立ち上がれない。

初秋の空気は澄んでいてひんやりする。

座りこんだまま空を見上げるとまあるい月が夜空にぽっかり浮かんでいた。

一刻も早くあの場から合コンからみっくんから逃げ出したかった。

何一つ言い返すことも出来ないなんて私は負け犬だ。

満月が涙で歪んで見える。

「なによ!人の事情も知らないで!」

今更ながらみっくんへの悪態が口をついて出ると、目から涙が溢れた。
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