ビターチョコレート
中から出て来たのは和装の凛々しい青年だった。

「み!」

みっくん…

幼少の頃の愛称が喉まで出かかったがぐっと飲み込んだ。

「赤城さん、お久しぶりです」

内心は動揺しまくりだけど、社会人生活で身につけたよそ行き笑顔でひた隠す。

みっくんも一瞬驚いて大きく目を見張ったが、直ぐに柔和な笑みで取り繕う。

「こんな格好ですみません。この後お茶会が控えているので」

みっくんは苦笑いを浮かべながら言う。

今日はお着物に合わせたのか前髪をあげて後ろに流し形の良い額を出している。

この間のカジュアルな装いとは一変し、精悍な雰囲気が漂ってよりいっそう王子様感を醸している。

「大槻さんとは先週もお会いしましたけどね」

苦い思い出が脳裏を過ぎりちくりと胸が痛んだ。

「お届け物で伺ったのですが、奥様はいらっしゃいますか?」

飲み会の件をスルーして一先ず用事を述べる。

「母は今用を足していて手が離せないそうです。よかったら中でお待ちいただけますか」

みっくんは、玄関を手で指し示す。

冗談じゃない…

そう言う代わりに私は小首を傾げてにっこり笑う。

「それでしたら此方奥様に渡していただけますか?」

私は張り付いた笑みのまま、紙袋を強引に押し付けると、みっくんは反射的に受け取った。
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