ビターチョコレート
「この間は、ごめん。あの後優香ちゃんから事情は聞いた。何も知らず俺は無神経なことをいった」

みっくは真摯な眼差しで真っすぐ私を見据える。

大きな黒い瞳は昔と同じで喉の奥に熱いものが込みあげてくる。

言葉を発したら堪えているものが溢れてしまいそうで私は無言のまま首を横に振った。

「チョコレートのお店なんて初めて入った。何がいいのかさっぱりわからなくて店員さんに言われるがまま買ったよ」

みっくんは肩を竦めて言う。

王子さまのような彼が戸惑いながらこのチョコレートを選んでいる姿を思い浮かべると、微笑ましい気持ちになる。

「昔よりチョコレートのグレードが上がったわね」私はチラリと袋に視線を落す。

「もうチロルチョコじゃ許してくれないだろ。それにあの時よりかは稼いでいるから」

みっくんは唇の片端を上げてにやりと笑う。目が合うと私たちは吹き出した。

こうして笑っているとなんだか昔に戻ったような気分になる。

「だけどみわちゃんだって随分他人行儀だったじゃないか。赤城さん、なんて呼ばれてちょっと傷ついたよ」

みっくんは恨みがましい視線を向ける。

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