櫻の園
居たたまれなかった。押しつぶされそうだった。
負の感情が溢れ出て、止めることができない。
かけるべき言葉はわかっていた。
でも頭の中はぐちゃぐちゃで、もうわけがわからなかった。
何の言葉も浮かんでこない。ただ頭の中では、お姉ちゃんの言葉がぐるぐると逃げられない輪を描いて回っていた。
『…"桜の園"は、上演中止だって』
あたしから全部奪って行っちゃわないで。
…嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ。
お願いだから。
『人生、棒に振ることになるわよ』
何にもない、空っぽな日々なんかに戻りたくない──。
「も…桃っ!?」
衝動的にカバンをひっつかんで出口へ向かっていた。あたしの背中を葵の声が追う。
叩きつけるように扉を閉めた。もう泣き声をこれ以上聞いていられない。
だって何もかもを一度に失くす瞬間なんて、もう見たくない。
『もし、"桜の園"ちゃんとやれたら──どこに行っても、夢に向かって頑張れる気がしたんだ。』
葵があたしにそう言ったあの時。あたしも同じ気持ちだったんだ。
今度こそ逃げずにやり遂げられたら、きっと何かが変わるだろうって――。
教室から勢いよく飛び出したあたしに、廊下にいた赤星さんがこぼれんばかりに目を丸くした。その視線を振り払うようにあたしは彼女に背中を向けた。
「結城さん…っ!!」
…泣きたいのは、あたしも一緒だ。
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