櫻の園

「…っ、本当はやりたいんだ…、でも、あたし、もう失いたくなくて…っ、怖くって…っ」


ボロボロとはがれ落ちるように次々と、口から言葉がこぼれていく。

自分の弱さを隠そうと周りを囲っていたものが、本当は脆くて危ういものだったことに初めて気がつく。


─頭の中はどこか冷静な部分があって、そこから徐々にいつもの思考回路が戻ってくるのがわかっていたのだ。


震える美登里の体の感触が、まだ手の中に残ってる。


「あたし…自分のことだけで…っ、逃げてばっかりで…、」


洲があたしの手を握った。その大きな手に、あたしの涙がボトボトととめどなく落ちていく。


…泣き出した美登里の小さな体は、驚くほどに震えていた。


きっと美登里は不安で不安でしょうがなかったのだ。たった一人で、真っ暗な闇の中に落とされて。

ずっと誰にも相談できなくて、一人で抱え込んで、それでも自分を保とうと笑っていたんだ。美登里は。


『結城さんと、友達になりたいなぁって』


あたしを救い出してくれたのは、美登里のその明るい笑顔だった。

光が差した気がした。前も後ろもわからない、地図を失った、あの暗闇の中で。



「あたしが助けてあげなきゃ…、いけなかったのに…っ」



それなのにどうして、あたしは声をかけてあげられなかったんだろう。


ギリギリまで追い込まれた彼女を、どうして抱きしめてあげなかったんだろう。


……どうして。



『桃って呼んでもいい?』



──あたしの初めての友達は、美登里だった。






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